C2. Other half

何をリジェネレイトする?

人と道具の関係性

その理由

人々が無責任な生産・消費と過剰な便利さの追求を手放し、その先にある暮らしへの移行を目指すため

日本における人と道具の関係性の変遷

過去: 資源・資産として循環

限られた資源の中から作られた道具は、家族、地域の大切な資産であった。
衣類・家財は世代を超えて受け継がれ、修理・修繕を繰り返し、大切に使われていた。
製作や修理・修繕に必要な技術もまた家族や地域の職人に継承された。

現在: 大量生産・便益優先

経済性追求の結果、作り手と使い手は分けられ、過剰生産と大量消費が加速。
「生産者」が多様な製品を市場に投入し、それを「消費者」が過剰に消費するという構造が出来上がった。
次第に人は道具をただ都合の良い消耗品として捉え、その価値観は当たり前となった。

きざし: 共同体意識の高まり

個人所有・個人主義から共同所有・共同体意識へ、また持続可能な生産と利用の模索から人々の意識変容の兆しを見ることができる。
地域コミュニティや相互支援の重要性が再認識され、 自然や趣味を楽しむ意識が広がる。
地球環境に配慮した生産体制の再構築や、持続可能な消費行動への関心が高まっている。

新しい世界観: 道具にも「使われる権利」

地球環境の維持のための法整備により、生産された道具には大切にされる権利が与えられる。
人は道具との関係性を長期的な視点で考え、生活を豊かにする大切なパートナーとして、不便益も楽しみつつ生活をしている。

人と道具の関係性の変遷 ――― 所有と愛着

過去: 資源・資産として循環 - ミニマルな江戸の生活

経済的に豊かではない江戸時代では、モノをあまり持たないのが一般的であった。
生活を支えてくれる道具を財産と考え、大切に長く使っていた。

現在: 大量生産・便益優先-大量所有時代

現代人一人当たりが所有しているモノは1,000~1,500といわれており、現代は大量所有時代ともいえるだろう。
使い捨て文化が当たり前になり、一つ一つのモノへの愛着が低下している。

きざし: 共同体意識の高まり-丁寧にモノと向き合う

ミニマリストやエシカル消費などのスタイルが注目を集めている。
大量消費に疑問を抱き、一つのモノを長く大切に使っていくことが精神的充足にも繋がると考える人々が増えている。

新しい世界観: 道具にも「使われる権利」-「自分のモノ」がなくなる

モノの生産・消費が制限され、新たなモノの購入が不可能になる。そこで「公共物」という存在が登場し、全てのものは社会全体で共有しながら使われるように。自分のモノという概念はなくなったが、人々は愛着を感じながら公共物と暮らしている。

キャプション-1 公共物の登場

【共生する関係への変化】

公共物の登場 地球規模で資源の枯渇・ごみの廃棄問題が深刻化し、モノを新たに生産することが厳しく制限されるようになった。
したがって、消費者もモノを新たに購入することができなくなった。

既にあるものを社会全体で共有して使っていくシステムが整備され、人々が共有して使う「公共物」という存在が登場した。日常生活で必要な時に公共物を借り、必要が無くなったときにそれらを返却する。

いつの間にか身の回りには「自分のモノ」という概念はなくなった。

キャプション-2 Other half

公共物が登場した当初は、人々に公共物が雑に扱われ、すぐ壊れてしまうという問題が顕著であった。
そこで登場したのが、「Other half」という印である。

人がモノを使用するときは、必ずストーリが生まれる。そんな、モノと使用者との思い出が、Other halfになって公共物のデータベース上に残り続ける。

そしてOther halfを開けば、誰でも、その公共物と過去の使用者との思い出にアクセスすることができる。

とある公共物のOther halfを読み取った、学生の体験を見てみよう。

キャプション-3 浪人中の学生の体験

私は医者になる夢をかなえる為、難関大学を目指している。しかし、何度も受験に失敗し、経済的に今年が最後のチャンス。焦りとプレッシャーで、数か月前から眠れない日々が続いている。勉強に集中できないでいたある日、見慣れているはずの筆箱が目についた。受験が終わらないので、この筆箱とも長い付き合いだ。なんとなく、筆箱にデバイスをかざしてother halfにアクセスした。

キャプション-4 過去の使用者の、色とりどりの痕跡

比較的新しい筆箱だと思っていたが、既に50以上のother halfが残されていた。私が気に入った、3つのストーリーを紹介しよう。

キャプション-5 Other halfに残されたストーリー① カフェで資格の勉強をする社会人

彼女は週末になると、いつもカフェで資格の勉強をしていたようだ。いつしか大学に入ることをゴールにしていたけど、勉強というのは、もっと細く長く続けていくものなのかも。

キャプション-6 Other halfに残されたストーリー② 人生をかけた絵を描いている画家

この筆箱の裏地に、なぜ青い絵の具がついているのかが分かった。彼は毎日、朝から晩までキャンバスに向かい、心の中にある全ての感情を絵に込めようとしていた。もしかしたら、今もまだこの絵を描き続けているかもしれない。

キャプション-7 Other halfに残されたストーリー③ 日本語の勉強をする留学生

最初は日本語が全くわからず、周囲に馴染めなくてさみしい思いをしていたみたい。けれど、筆箱と一緒に猛勉強する彼の懸命な姿に、私も勇気をもらった。

キャプション-8 私のother half

いつのまにか自分はものすごく孤独だと感じていたけれど、そんなことはなかった。この筆箱が、今まで頑張ってきた人たちの存在を感じさせてくれる。そして私も、皆に負けないくらいの努力した姿を刻みたい。私はスーパースターではないけれど、いつか、この筆箱の未来の持ち主に勇気を与えられるといいな。

キャプション-9 残りのもう片方

人は、公共物という一期一会のモノたちとの思い出を刻みながら生活していく。そしてその思い出は、モノ側だけでなく、使用者側にもother halfとなって蓄積されていく。モノは手元に残らないが、かつて苦楽を共にした公共物たちとの思い出は、永遠に使用者にも残り続ける。