D1. H公園核廃棄物最終処分場

何をリジェネレイトする?

タイパ・コスパ優先の価値基準

その理由

タイパ・コスパは超短期思考。
大きな社会課題解決に必要な長期思考と相反するから。

日本人の価値基準の変遷 - 過去・現在・未来

過去: コミュニティ優先

経済共同体としての「家」制度は、個人よりも家族や地域の利益が優先され、
効率や最小コストでの成果よりも、長期的な関係維持や共同体の安定が重視されていた。

現在: 経済合理性優先

お金・時間・いいね等、数値で測ることができるものに依存。即時的に結果が分かりやすく、
短期的な満足や成功を得やすいため、タイパ・コスパが日常の意思決定に大きく影響する。

きざし: つながり復権

所有・個人主義からシェア・共同体意識、持続可能なつながりを模索する動きが見られる。
これらの兆しは、新しい形の人間関係や社会のあり方を模索する試みと考えらる。

新しい世界観: 他者への共感と感謝

共鳴と感謝を伴うギフトエコノミーが資本主義と共存する世界では、あらゆるものが円滑につながり、
人々は個人のタイパ・コスパだけではなく広範囲かつ長期的な視野で物事を考えている。

日本人の価値基準の変遷 ――― エネルギーとの向き合い方

過去: コミュニティ優先 - 資源への尊崇

江戸時代までは木材が主なエネルギー資源だった。自然への畏敬と感謝の念を抱きつつ、長期的な視野に立って持続可能な循環型エネルギーの仕組みを大切に守っていた。

現在: 経済合理性優先 - 発展のために資源を貪る

近代から現代にかけては経済効率が優先され、安価な化石燃料と原子力に依存し、環境への配慮や最終処分問題が後回しにされてきた。

きざし: つながり復権 - 世界発展よりも地域持続

分散型エネルギーはまだ普及段階であるが、地域でエネルギーを共有する仕組みが構想され、協力を通じた新たな社会的つながりが生まれ始める。

新しい世界観: 他者への共感と感謝 - 再び資源への尊崇

分散型エネルギーと、その調整弁としての原発のエネルギーミックスがバランスした日常。原発との共存を選択した人々は畏怖と感謝の念を持って、「恩恵の享受」と「廃棄物の管理」双方を受け入れる新しい価値観を持つ。

キャプション-1 核廃棄物との共存

日本で1966年に商用利用が始まった原子力発電は、驚きべきことに発電後に残る核廃棄物の処理方法が未解決のまま運用が開始された。その時点では、以降100年に渡って解決のないまま核のゴミを貯め続けることになるとは知る由もない。
変換点は2040年。日本人の眠っていた利己的な遺伝子が覚醒し始める。温暖化を原因とした自然災害の激化、酷暑、食糧価格とエネルギー価格の高騰、感染症の蔓延など、自らの身にふりかかる禍に危機感を覚えた日本人は、ようやく環境問題を自分事として考え始めた。再エネと原発のエネルギーミックスを選んだ彼らは長期的な視野の元、核廃棄物との共存を決めた。「見えないところに埋めて隠す」よりも「見えるところで皆で監視しつつづける」方が人類が生き延びる確率が高いとAIが判断したからだ。そして2066年、日本初の最終処分場として「H公園核廃棄物最終処分場」が生まれた。

キャプション-2 感謝と畏怖を共有する装置としてのH公園

従来の「地層処理」が地下深くの安定した岩盤に高レベル放射性廃棄物を閉じ込め「人間の生活環境から隔離して処分する」のに対して、H公園ではそのエネルギーを享受する都市部の地下深くに埋めて「日常的に存在を感じながら自分たちで管理し続ける」。どちらも、地下深くに埋められた廃棄物は直接見ることはできないが、H公園ではそれを「無かったこと」にはしない。地層処理を行った地下から汲み上げた地下水で稲作を行い、年間を通してイベントを開催すことで、安全の確認と発電への感謝、制御しきれない存在への畏怖を共有し、後世に継承し続ける。

キャプション-3 収穫祭

10月初旬、H公園ではC区民の1週間分のコメの収穫がある。毎年その豊作を祝って収穫祭が開催される。収穫祭では新米を使った料理や餅を食べながら核のゴミが安全に管理されてることを体感し、お互いに感謝を伝えあう。 水田の中央には仮設の櫓(やぐら)が立ち上がり、夜になると火を焚き、秋の実りとエネルギーに感謝するとともに核のゴミが安全に管理され続けることを祈願する。

キャプション-4 永封の儀

年末が近づくと、仮設の櫓(やぐら)とエレベータが出現し、その1年自分たちが消費した電力の発電で生じた約40本のガラス固化体(再処理後の放射性廃棄物)を地層処理するために儀式を執り行う。その儀式を通してC区民はこれから数万年管理し続けることになるガラス固化体を間近に感じ、畏怖と感謝の念をもってそれらを永封する。永封の儀が終わると、C区民に新年が訪れる。